落語 文字起こしシリーズ-1 <粗忽長屋>

落語

こんにちは。
今年55歳犬好きギター少年 mitsuru..です。
本日も<wonderful wonder words>にお越しくださいまして熱く御礼申し上げます。
今回は、私の大好きな古典落語『粗忽そこつ長屋』のお話をさせていただきたいと思います。

開演前

粗忽長屋とは・・・

江戸落語の演目の一つで、滑稽噺こっけいばなしの内の、粗忽者そこつもの(=そそっかしい人)を中心に繰り広げられる粗忽噺の代表作。
演じた代表的な噺家はなしかは、
五代目 古今亭志ん生(1890-1973)
五代目 柳家小さん(1915-2002)
七代目 立川談志(1936-2011)
三代目 古今亭志ん朝(1938-2001)
十代目 柳家小三治(1939-2021)
などの名人達です。

その中でも今回は、私がこよなく愛する古今亭ちょう師匠の『粗忽長屋』を紹介いたします。
声のつや、立て板に泉のような語り、心地の良いテンポと間、そしてサゲに至るまでのスピード感。
もう他の追随ついずいを許さない天才噺家志ん朝。その語りを再現するために、できるだけ正確に文字起こししたいと思います。

「上」「下」

一人で複数の登場人物を演じ分け物語を進めて行く落語では、今どの人物が話をしているのかを観客に分かりやすくするために、人物間の上下関係などを元に、顔や目線の向きなどを左右に振り分けて描写するという手法が取られます。
この時、客席から向かって右方を「上手かみて」・左方を「下手しもて」と言い、その所作は「上下かみしもをつける」「上下を切る」などと言われます。
ここでも観客となって、上下の位置に合わせて文字を展開して行きます。次のように読んでいただくと、読みやすくなると思います。

「上」から「下」へと追って行ってください。

開演

出囃子の調しらべべとともに師匠の登場。
思わず身を乗り出すお客様、拍手喝采かっさいでございます。

出囃子

出囃子でばやしとは、噺家が高座に上がる際にかかる音楽。
演奏に使用される楽器は主に三味線、太鼓、笛など。
噺家ごとに曲目が決まっており、「通」は曲の鳴りを聴いただけでどの噺家が出て来るかをすぐさま察知するそうです。
『よっ!待ってました!』とばかりに寄席の空気は一つに。いよいよ演目が始まります。

まくら」とは、落語の本題に入る前の導入部分のこと。
落語はたいてい、「枕」-「本編」-「サゲ(オチ)」の3部で構成され、噺家が登壇とうだんしてすぐに「本編」が始まるのではなく、たいていはその前にしばらくの時間を取って「本編」に関連する話題を話したり、古典では江戸時代ならではの風習のようなものを紹介したりします。噺家だけでなく、観客に対しても「本編」にスムーズに入りやすくするという言わば場を暖めるウォーミングアップの役割を果たします。
演目ごとに定番の「枕」となっていることが多く、通になると「枕」の第一声でどんな演目が始まるかを察知します。

えぇーっ、お集まりいただきまして有難くお礼申し上げます。嬉しいもんでございますねえ、えぇ?出て来る途端にぃ、みんな、この拍手でもって迎えていただける。もう我々芸人にとって拍手ぐらい嬉しいものはないんです。お金を何万円もらうぅーのも嬉しいですけれども、それと同じぐらいに嬉しいですな。まあいろいろと他にもお遊び場所があるんでしょうけれども、こうやって気を揃(そろ)いてここに集まってくださったこの皆様方、それだけでもう皆様方の前途は洋々たるもんだと確信いたしております。まぁしかし人間というものは色んな人間がおりましてねえ、えー、中で大変にこの物事を慌てるという人がおりますな。
えー、そうかと思うとやに落ち着いている人がいらっしゃる。でまあこのー、おーどっちがとくかってえとそら落ち着いてる人の方が得ですよ。慌てる人はねえ、何かあるってえとすぐにこうはあっと表へ飛び出したりいろんなことをして、ねえ、え?それが元でもって転んで怪我ぁするとか、ねえ、物を落っことすとか忘れて来ちゃうとかいろんな、うーことがありますが、落ち着いている人はそうじゃないですよ、ねえ、ええ。おおそういう危険にはあわないし、ええ表を歩いてて何か物を拾ったりなんかしてね、大変得ぅするんですな。あぁ。なあ面白いのはどっちが面白いかというとそそっかしい人ですね。ええ、そりゃ面白い。まあ失礼ながらお客様方の中にもそういう方がいらっしゃいますよ。ああ、ねえ、うん、本当ですよ。慌てて表へ出ようてんで戸を開けないうちにバーンと出ようとしたりね。夜中におきてぇあの鏡に映った自分の顔をみておおーっ!なんて驚いたりなんか。マスクしたまま唾をパッと吐いちゃったりなんかしてね。いろんな人がいるもんですよ。

あたくしの友達で大変そそっかしいのがおりましてね、そいつを一緒にあのタクシーへ乗ったんです。これは本当にあった話ですよ。でそいつがね急に煙草を吸いたいってんでね、『よしなよ、降りてからにしなよって、今どうしても吸いたいって言うの?じゃあいいよ吸っても。』したらそいつもあたしもね、マッチもライターも持っていない。うーんしょうがないなと思ったんで運転手さんに『すみませんけどぉ、火ぃ貸してやってくれまか?』ったら親切な運転手さんだ。『はい、ちょっと待ちください。』ってあの車にはライターってものが付いていますね?ええ、ご承知の通り、あの丸くってこの5センチぐらい、まあ車によっていろいろと違うんでしょうけどもねえ、ええ長さのやつ、これ、ダッシュボードっていうんですか?前のところに、灰皿の脇辺りに大概(たいがい)付いていますな。これをギュッと押し込むってえとしばらく経つと、あの充電されて「ピン」と音が何か立てて少し抜けるんでこれをキュッと引き抜くと先が真っ赤にやけてるんで、これをはいって『お使いな。』ったら、『ありがとう。』ってそれで煙草に火ぃ付けて表にポンとほおっちゃった奴がいるんですよ。これはぁ驚きましたですよおぉぉ。探して歩くのに骨折っちゃいました。

ねえ、まあいろんなのがおりますよ。また何か物をおもいだせないんですな、粗忽(そこつ)な人ってのはぁねえ。『ええーー、何だっけなぁ向こうから来る人、あっはっはっは、知ってるよ。ニコニコニコニコ笑ってこっちぃ来るんだ。やっよく見る顔なんだよなあ。名前を思い出せないってえと失礼に当たるからな、えー何だっけんなぁーあーあーつ!も間に合わねえや。『どうもしばらくでございました。えーお達者で?』『うん。お前も元気か?』『ええ、失礼でしたがどちら様でしたっけ?』『お前(おめえ)の親父(おやじ)だぁ。』なんてんでね。もうこうなるってぇと話になりませんけれども。もうこんな連中が住んでいる長屋みたいなのがありましてね、もうそんなところはまともな人間がとても付き合っちゃぁいられないというんでどんどんどんどん引っ越しちまう。ですから残ったのはみんなっそそっかしい連中でね。何か事があるってぇと大変ですな。

本編

終演

いかがだったでしょうか。
志ん朝師匠の魅力を完全に表現するには至りませんが、お話の面白さは伝わったのではと思います。
次回も落語の文字起こし第二弾に挑みたいと思います。
今回が江戸落語だったので、上方落語の演目にしようと考えています。
今回もお読みいただきまして誠にありがとうございました。
最後に私が文字起こしをした元の音源を貼付しますので参考にしてください。
それでは、お後がよろしいようで。

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